(建築ライター 取材・執筆)
寺院は仏教信仰の中心であり、僧侶が修行し、信者が参拝する神聖な場所。その中でも先祖供養は、寺院が担う重要な役割のひとつです。
今回は、小浜市内で菩提寺を兼務するお寺の住職から依頼を受け、忠建築が製作した位牌棚をご紹介いたします。
お寺の役割と位牌棚の重要性
寺院は活動の目的によっていくつかの種類に分類されます。
たとえば、祈祷寺。家族や会社の繁栄を願うご祈祷は、神社だけでなく寺院でも行っています。祈祷寺は、そのような現世利益を授けることを目的とした寺院です。
そのほか、修行僧が修行に励むための修行寺。そして、多くの方にとってもっとも馴染みが深いであろう、菩提寺で。
菩提寺は、その宗派に帰依した檀信徒(檀家・信徒)の先祖代々のお墓を管理し、法事や法要を執り行うという、とても重要な役割を担っています。
菩提寺ではない寺院でも、永代供養や一時預かり供養などで位牌を預かる場合がありますが、それらのお寺にとって欠かせない設備の一つが、位牌棚です。
位牌棚は先祖の位牌を安置し、供養するための特別な場所であり、お寺の中でも重要な意味を持っています。
位牌棚に求められる機能性と美しさ
先祖供養という大切な役割を持つ位牌棚には、機能性と美しさの両立が求められます。
長年の使用にも耐える耐久性と、位牌の安全を守る安定性。空間に溶け込む素材や意匠。
ただぴったりと組み合わせるのでなく、棚板と正面板を棚全体の幅より少し長めにカットし、端部を側板から数ミリ出すことで、白木仕上げの簡素な意匠に奥行きと陰影が生まれました。
ただぴったりと組み合わせるのでなく、棚板と正面板を棚全体の幅より少し長めにカットし、端部を側板から数ミリ出すことで、白木仕上げの簡素な意匠に奥行きと陰影が生まれました。
供養する人の想いに応える
位牌棚の明るい白木の色が、重厚なしつらえのお堂の中でやや浮いているようにも見えますが、位牌棚となった無垢の木はこれから長い時間をかけて少しずつ飴色に変化し、お堂の意匠に、そして空気に馴染んでいくはずです。
お寺の位牌棚の製作を通じて、改めて寺院建築の奥深さと、その意義の大きさを実感しました。
先祖供養という大切な役割を担う寺物を製作することの責任の重さ。供養する人の想いに応える品質の追求。
製作現場で学んだこれらの大切さを、宮大工として今後の寺院建築にも活かしていきたいと思います。