(建築ライター 取材・執筆)
忠建築が手がけた、小浜市内にある神社の社務所。
その約1か月後、今度は同じ神社の境内に『おみくじ結び所』の設置を依頼されました。
おみくじ結び所の起源と意義
神社の境内にある木の枝に、無数のおみくじが結ばれているのを見たことある方は多いと思います。
木は、天に向かって伸びてゆくことから“神聖な存在”であると考えられてきました。
おみくじには【吉】もあれば【凶】もありますが、【吉】であればよい運気が続くよう、【凶】であれば厄除けの意味を込めて、おみくじをその神聖な存在である木に結びます。
それが、文字どおり神様との縁を“結ぶ”ことにつながります。
しかし、小柄な人など木におみくじを結ぶのに不便を感じることもあるでしょうし、枝を引っ張ることによる木へのダメージもあるでしょう。
そういった理由から、今は境内におみくじ結び所を設置して、そこへおみくじを結ぶのが通例となっています。
境内で生まれ育った木でなくとも、おみくじ結び所は境内に設置されることで祈りの対象となり、やがて神聖な場所として、その存在感を高めてゆきます。
伝統木造の技と美しさ
小ぶりながらも、しっかりと軒を張り出した切妻造りの金属屋根を支えるのは、堅牢な束と柱。
木組みの繊細な組子細工や、入念な技巧。
装飾の施された日本建築特有の小屋組みは、美観と実用性を兼ね備えています。
二本の柱で頭上を支え、きちんと自立できるだけの強度を保つため、コンクリートの基礎と土台、柱の下部は控え(斜め材)で補強することで、建物の安定性を高めています。
美しい意匠と、雨風からしっかりと身を守る構造。
自然の木目が生かされた生木の色合いが、自然の景観や木で造られた神社内の建物にしっくりと調和します。
参拝者の願いを宿す場所
本殿の傍らに佇み、参拝する人々をそっと見守るおみくじ結び所。
社務所でおみくじを引いたあと、人々はそのおみくじに記された言葉を読み解き、噛みしめて、本殿に足を運んでお参りするとともに、吉報を祈願しながらそっとおみくじを結び所に結わえて帰ります。
年を経て、雨風や紫外線にさらされながら、このおみくじ結び所も本殿と同じように少しずつ色を変えてゆきます。
そして、こうして長い年月を人々の願いを宿しながら、より神聖な場所へと我が身を高めてゆくのでしょう。