修行を終えて、地元へ。

こんにちは、忠建築の上山です。
いつもブログをご覧いただき、ありがとうございます。

今回は、宮大工としての修行を終え、地元へ戻る決意をした頃の話を書きたいと思います。
たくさんの学びと、忘れられない棟梁とのやり取り──
今の僕にとって、どれもかけがえのない経験です。

少し長くなりますが、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。


13年間の修行で得たもの

約13年間の修行期間で、本堂・山門・鐘楼といった大きな現場の棟梁を任せてもらいました。
その他にも、大工として10棟以上の社寺建築に携わらせていただきました。
今思い返してみても、本当に貴重な経験をさせてもらったと思います。

棟梁はよく、「1人前になるには10年かかる」と話していました。
実際に8年目くらいから、ある程度の仕事は任せてもらえるようになり、「ここまでできれば1人前かな」と感じることもありました。

でも、現場棟梁を任されてから気づいたんです。
建物を建てる技術だけでは、本当の1人前ではないことに。


技術だけでは足りないもの

現場の仲間をまとめたり、限られた工期の中で確実に仕事を進めたり──
現場全体を見渡して、先を読みながら動く力。
技術だけじゃなく、人を導く力、段取り力、責任感。

自分にはまだまだ足りないところがたくさんある。
そんなことを毎日のように感じていました。

「もっと成長しなければ。」
そんな想いが強くなっていった時期でした。


決意と、量市さんとの別れ

もっと社寺建築を深く学ぶために、鵤工舎に残る道もありました。
でも、僕には「父の後を継ぐ」という決意が最初からありました。

任せてもらっていた本堂の工事が無事に終わったら、地元に帰ろう。
そう心に決めて、量市さんにその気持ちを伝えました。

理由を深く聞かれることはありませんでした。
量市さんはただ一言、「わかった」と言ってくれました。

その言葉に、たくさんの想いが込められている気がして、胸が熱くなったのを今でも覚えています。


棟梁との晩酌、そして忘れられない言葉

本堂が完成してから退舎までの間は、宿舎で過ごしていました。
棟梁も同じ宿舎に住んでいて、晩ごはんのあとに何度か晩酌をする機会がありました。

その時間に聞かせてもらった、職人の心得、仕事への向き合い方、人としてのあり方──
どれもが、今の僕の土台になっています。

退舎の数日前、棟梁がふと「寿司でも行こうか」と声をかけてくれました。
二人で近くの寿司屋に行ったときのことです。

たまたま隣のカウンター席に、近くの会社の社長夫妻が座っていました。
棟梁は僕のことをその社長さんに紹介してくれました。

「こいつは卒業して地元に帰るんですよ。もう何でもできるし、すごいんだ」と。

普段、褒められた記憶などなかった僕にとって、その言葉は本当に驚きでした。
でも、それ以上に、「もっと努力しなければ」と思ったんです。

「もっといろんなことを学ばなければ。
もっと技術も知識も上達させなければ。
こんなふうに言ってくれる棟梁に、恥ずかしい思いをさせたくない。」

そんな想いが、改めて強く湧き上がりました。


次回からは、地元に戻り、忠建築として家づくりに取り組み始めた日々について書いていこうと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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